恐るべき追跡者
ウズベキスタンからタジキスタンのペンジケントに移動するのだがこれがなかなか大変であった。
タジキスタン、キルギスは電車やバスなどが発達していないため長距離の移動は基本的に乗り合いタクシーというもので行われる。
6人乗りの車に客が集まり次第出発するシステムである。
2、30分程待てば集まると油断していたが
1時間待っても2時間待っても人が集まって来ない。3時間以上待ってようやく出発した頃には
待っているだけなのにヘトヘトになっていた。
春休みのディズニーランドでもこんなにも待たなかったと思う。
やっとの思いでタジキスタンに到着したのだが
ここで恐怖の体験をすることになる。
ATMでお金をおろしていると小柄な男が近づいてきた。
そして、いきなり画面を触ってきたのである。
しかもとびきりの笑顔で。
「どけ!」と注意しながらなんとかお金をおろしおえると、その男は我々が持っているお金を見てニコニコと頷いている。
お金を狙ってると思った我々は彼から逃げることにした。
今後彼のことをリトルタイラントと呼ぶ。
速足でリトルタイラントから逃れようも試みるも、彼は余裕で着いてくる。
彼はいつもにこやかであった。
そして現地の言葉でずっと話しかけてきた。
「^×÷=//×@=/_/」
最初のうちは何を伝えようとしているのか理解しようとしていたがサッパリ理解できなかった。
いくら無視しても健気に着いてくる彼のことを
なんだか良い奴なんじゃないかと思い始めてきた。
しかし、タジキスタンのペンジケントで石を投げられたというブログの記事を見ていたのでやはり警戒心は拭えない。
我々は走って逃げることにした。
合図と同時に走り出す。
追いかけっこは小学生以来である。
200メートルほど全力で走り、やっと撒けたと思いケント君のほうを見て「あいつ何者やねん」と声をかけるとリトルタイラントはケント君の後ろに平然といた。
本当に何者なんだ。
そこから我々はリトルタイラントの訳のわからない言葉で行われる漫談を聞き相づちをうち、たまに「もう帰ってくれ」と語りかけ、たまに彼を撒こうと小走りをしながら2キロくらい歩いた。
リトルタイラントが友達に思えてきた一方で
彼は道端で会う怪しげな男たちに声をかけ我々を指差し笑っていた。
「こいつらカモだぜ。人通りのいないところでボコボコにして金でも巻き上げよう」と言ってるようである。(知らんけど)
我々は恐ろしくなりもう一度、走って逃げることにした。
合図と同時に走り出す。
100メートル、200メートル走る。振り返ると奴は笑顔で追いかけてくる。
バザールがあり人通りの激しい道を見つけ、
人を掻き分け逃げる。
もう怖くて後ろはふりむけない。
リトルタイラントの笑顔が頭にこびりついている。
走り続けた我々が到着したのは
廃墟と化したテーマパークであった。
ボロボロになって錆びだらけの建物を見ると少し恐ろしい気持ちになる。
ソ連時代に作られたテーマパークなのだろう
当時の賑やかな写真も飾られており、いっそう寂しさを掻き立てる。
霧がかった天気もあいまって、バアオハザードのような世界観である。
後ろから足音が聞こえる。
私は後ろを振り返ることができない。