オーディションに突撃 〜海を越えてデビューなるか?〜
前回の続きの話である。
すぐる君と私はご飯を食べながらお互いについて話していた。
すぐる青年は私のような平凡な生活とはかけ離れた
ユニークな生活を送っていた。
覚えている限りでも
インドで騙されたり、ミャンマーの寺に住んでたり、ミャンマーで日本語を教えてたり、ボディービルダーをしてたり、ジムのトレーナーをしてたり、怪しげなプロテインを作成してたり、本当に色々なことをしていた。
恐らく他にもしていたが記憶が追いつかない。
自分より若いにも関わらず私より遥かに人生経験を積んでいて
とても刺激を受けた。
ミャンマーの見るべきスポットを詳しく教えてもらったり
ミャンマーの政治経済、宗教についてなど堅い話もした。
本当に博識で優秀な男である。
残念ながらスケべな話もしっかりした。
話し始めてだいぶ経ってから大学の後輩だということがわかった。
世界は狭いものである。
今までお互い敬語だったが大学の後輩と知った瞬間、私はタメ口になった。
ダサい人間の典型である。
「ここの店員さん可愛くないですか?」すぐるが言う。
「めちゃくちゃ可愛いな!てかミャンマー可愛い人多くない?」
「そうなんですよ!可愛い子探しに行きましょうか」
「ええやんええやん」
「さっき、ショッピングモールでオーディションやってたんで見に行きますか?」
「行こ行こ!可愛い子いっぱいいそう!」
ちなみにすぐる情報によると
ミャンマーの女の子はとてつもなく嫉妬深いそうなので
可愛いからといって軽い気持ちで付き合うと痛い目に合うらしい。
ノリノリでショッピングモールに向かう。
オーディション会場に到着し、しばらく見学をする。
オーデイション特有の緊張感を感じているとふと記憶が蘇る。
未来のダウンタウンを目指し私も一度お笑い事務所へ
オーディションに行ったことがある。
軽くその際披露したネタの内容をお教えしよう。
舞台は船の上である。
ボケである私は船員である。
ツッコミである相方は船長という設定だ。
私は小林という船員を食べてしまい(唐突な展開だが)
その小林がなぜかエンジンに絡まってしまい、船が動かなくなってしまう。
その後、船が難破してしまい、船長と私は脱出ボートで逃げようとするが
なぜか小林がボートに絡まってボートが動かない。
オチは釣りをしていたら、待ってましたと小林が釣れるというものである。
どうだろう?
皆さん意味をわかって頂けただろうか?
私はわからない。(ネタを作った本人だが)
案の定、鬼スベりして
私と相方は一生ものの精神的な深傷をおったものだ。
もちろん落ちた。
昔、Mー1グランプリに出場したこともあるのだが
その際に行ったネタは女子高生扮する私が出会った男たちを次々と
食べて、最終的にその内臓を客席に投げつけるというものである。
客席からは笑い声ではなく、悲鳴が聞こえた。
もちろん一回戦落ちである。
私はふと「これ今からでも出られへんかなぁ」と口にする。
「出たいですね!」
「ええやん。ええやん。すぐるがボディービルしてさ、その周りを俺が踊り狂うわ」
想像してみたがなかなかにシュールな映像である。
なんのオーディションかは全然わからない。(アイドルのオーデイションっぽい?)
少なくともお笑いでないことは絶対的である。
十中八九、場違いであるが
我々はスタッフにオーデションに参加できるか
ダメ元で交渉してみることにした。
スタッフによると今審査を受けている人たちは
すで一回目のオーディションを勝ち上がった人々らしい。
ダメかと諦めたが
いきなり日本人がミャンマーでオーデイションを受けたいと
直訴してきたのが珍しかったみたいでスタッフ同士で会議が始まった。
『代表に連絡してみるから待っててくれ』と一人が言う。
おいおい。いいのか?
我々の芸がどんなものなのか知っているのか?
一人はパンツ一丁でマッスルポーズを取り、
もう一人は奇声を発しながらその周りを踊り狂うというものだぞ。
すぐるはやる気満々である。
私は過去の忌まわしき記憶が蘇る。
代表がいるところに連れて行ってもらい今回の成り行きを話す。
代表は『君たちは今後もミャンマーにいるのか?』と尋ねる。
すぐるは『います!』と答える。
結論から言うとう一回目の選考が終わっているから
この場でパフォーマンスを披露は出来ないという。
しかし代表も変な日本人を面白がってくれたみたいで
パフォーマンスを動画で送ってきて欲しいと名刺をもらう。
今、目の前に未来のスーパースターがいるというのに
代表も可哀想だなと私は哀れみの目を向ける。
何せ、私は数日後ラオスに行かねばならないからだ。
この夢の続きはすぐるに任せるしかない。
オーデイション会場を見回し、すぐるをふと見る。
次会うとき、彼はミャンマーのTVスターになっているかもしれない。
サインをもらっとけばよかった。