ここはどこ? オールナイトフィーバー!!
クラブミュージックが爆音でなり響く。
暗く狭い密室で男女が大声を出しながら躍り狂う。
真夜中だがその空間にいる人々は昼間よりも激しく活動している。
ここは六本木でも渋谷でもない。
キルギスである。
さらに言おう、ここは車内である。
乗り合いタクシーの中である。
私は目の前に広がる光景に唖然としていた。
正直言うと「うるさいよ!寝かせろよ!運転に集中してくれよ!」という気持ちだった。
車内で静まりかえっていたのは私と隣に座るケント君とその前の三人席に座っていた滝藤賢一似のキルギス人だけだった。
我々はまだ一番後ろで息を潜めるように座っており事なきを得ていたが、滝藤賢一に至っては真横の人間がぎゅうぎゅうの車内で手を振り回して叫んでいる。
それでも滝藤は名役者のごとく目の前をただじっと見つめていた。
なかなかに渋い演技をするじゃないか。
車内が盛り上がるにつれてふつふつと恐怖が沸き起こってくる。
この雰囲気は...こっちにも流れ弾が飛んでくる!
くるな!くるな!という願いは虚しく、案の定悪魔の囁きが聞こえてくる。
「盛り上がってるか日本人?」
無視することもできた、寝たフリをすることもできた。
しかし、私はエンターテイナーである。
求められた発注には全力で答える。
苦笑いをしながら遠慮がちに「イエス」と答える。
パーティー野郎共はシケた日本人だと思ったに違いない。
次の瞬間、私は尊敬している日本最高峰のエンターテイナーである江頭さんを彷彿とさせるような動きを魅せる。
パーティー野郎は驚いた顔を見せた。そしてその顔はみるみるうちに喜びの表情に変わる。
車内は一番の盛り上がりに達した。
ここまできたら大和魂をみせてやると曲の合いの手を私は入れ始めた。
そして「それ!それ!」と叫んだ瞬間、車内が爆笑に包まれた。
助手席に座っていた男は比喩も誇張もなしに膝を叩いて笑っていた。
人生で一番ウケた瞬間である。
それからというもの「それ!それ!」と言うだけで爆笑をとれた。まさに魔法の言葉である。
パーティー野郎共はこぞってこの言葉を真似した。「それ!それ!」の大合唱である。
いつしか我々は「それ!それ!」だけで会話するくらいになった。
一人の男が「それ!それ!」 ってどういう意味だ?と尋ねてきた。
なんと伝えていいか分からなかったので「日本のソールワードだ!」と嘘の情報を教えてしまった。キルギスで「それ!それ! 」と話しかけられたら私のせいである。申し訳ない。
気を良くしたパーティー野郎共は店を見つける度に車を止めて酒を買い、我々に飲ませてきた。正直もう眠たかったし、こんなにも飲めないと辛い気持ちもあったがミュージックはお構いなしに鳴り続けた。
エンドレスに続く騒乱の中、滝藤だけが黙って前を見ていた。
彼は何を思っていたのだろうか?
珍しく女性から写真を要求されたシーン。